■澄川龍一
“ポスト『Contact』”を最初に示したシングルで後半戦はスタート。パーカッシヴで木目細やか菊田大介によるサウンド・プロダクションも素晴らしいのだけど、やはり注目はいよいよをもって自分のものにした感のある重層的なコーラスワークだろう。さまざまな表情を持った声がサウンドの間を縫うようにして耳へと滑り込んでいく、ゾクゾクするような感触はまさに唯一無二。エフェクティヴではあるのだけど、実に有機的なヴォーカリゼイションなのだ。
■冨田明宏
2008年、茅原実里1枚目のシングルとなったが曲。「Contact」の世界観を引き継ぎながら、そのイメージからの跳躍も意識された、斬新なサウンドのマテリアルが随所に散見できる。静と動が入れ替わる展開と、透明感や浮遊感にキリッとした輪郭を与える、茅原自身による多重コーラスが絶妙な美しさを生んでいる。神秘の世界を綴った歌詞も含めて、リスタート以来志向してきた音楽性の完成形とも言うべき名曲。
■永田寛哲
シングルリリース当時、「今度はこう来たか!」という心地良い驚きを与えてくれた本曲だが、こうしてアルバムの一曲として改めて聴いてみると、また違った感触が味わえるのに驚いた。多重に折り重なったコーラスの心地よさが、単独で聴くよりも深く染み入ってくるようだ。もちろん、茅原実里&畑亜貴&菊田大介という黄金トライアングルが紡ぐ深い音楽性は、まったく色褪せていない。
■前田久
通算3枚目のシングルにあたる一曲。BPMはこれまでのシングルに比して控えめながらも、ストリングスアレンジの壮麗さは変わるところがない。途中、ボーカルラインに寄り添うように披露されるヴァイオリン・ソロが、それまでのストリングスパートと絶妙な対比を描いているあたりも、実に心憎い。アルバムの流れの中におくと、楽曲のシリアスな雰囲気がより高まって聴こえるあたりも聞き所だ。
■渡邊純也
茅原実里の2008年はこの曲と共に幕を開けた。
シングルで発売された遥かなる恋の物語の歌である。
決して消し去ることができない記憶の欠片。
そんな欠片にすがるようにして募らせる、あなたへの想い。
正面から向き合うことが許されない恋、障害のある恋、
運命によって抗われる恋が見事に表現されたリリックと、
ストリングによるイメージがリンクして心を揺さぶる。
囁くようにリフレインされるコーラスが幻想的で、
目を閉じてゆっくりと聞かせることができる、新しいアプローチ。
人の思いはエントロピーにも似て次第に広がり増大していく。
そんな広がりをイメージして、聞いてみて欲しい。
クロスレビュアー
>> 澄川龍一
78年生まれのアニメ/音楽/シナリオ・ライター。アニソンマガジン(洋泉社)、アニカン(アニカン)、声優グランプリ(主婦の友社)、CDジャーナル(音楽出版社)などで執筆中。
>>冨田明宏
80年生の音楽ライター。『bounce』、『CDジャーナル』、『クッキーシーン』、『テレビブロス』などに執筆。『アニソンマガジン』、『オトナアニメ』、『アニカンR-music』、『エクス・ポ』でアニソンの真剣評論も展開中。著書に『同人音楽を聴こう!』(共著)など。
>>永田寛哲
アニメソング専門誌『アニソンマガジン』編集長にして、編集プロダクション・ユービック代表。 11/29に『テクノ歌謡ディスクガイド』(扶桑社)が発売されます。
>>前田久
1982年生。ライター。通称“前Q”。主な執筆媒体に『オトナアニメ』(洋泉社)、『アニソンマガジン』(〃)、『月刊Newtype』(角川書店)、『まんたんブロード』(毎日新聞社)など。
>>渡邊純也
構成作家。「涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部」「らっきー☆ちゃんねる」「radio minorhythm」「yozuca* MUSIC-GO-ROUND」などを手がける。