アルバム中盤から後半にかけて緊張感溢れる楽曲が続くのだけど、このミディアム・ナンバーであるひとつのヤマを迎える。まず、序盤のひっそりとした歌唱から徐々に盛り上がっていく展開がお見事。弦一徹による力強いストリングス・アレンジが支配的なサウンドとサウンドの隙間にできた空間を、長く引き伸ばしてじっくりと歌い上げているかのようで、その空間技術に感服してしまう。剛でもあり柔でもあり、そしてエアリーな茅原実里の魅力が存分に発揮された一曲だ。

「蒼い孤島」から続くディープな世界観を引き継ぐような、情熱的な愛と孤独感を歌い上げた歌詞は衝撃的なほどにリアル。小節ごとに重ねられていく、サウンドのアンサンブルが重厚なメロディを組み上げ、柔軟な歌唱力で多彩な世界観を歌い上げる茅原の歌声からは、日常感にも似たリアルさが立ち昇ってくる。本作のレンジの広さを思い知らされた楽曲。

前曲のハードさを引き継いだかのような、こちらも硬質なロックバラード。とある二人の別れの光景を歌ったものだが、ややもすればありふれがちなシチュエーションを、新鮮に料理している作詞のこだまさおりの手腕と、それを茅原の歌唱がどうアプローチしているか聴きどころだろう。

　ヘヴィなバックトラックと、それに負けじ劣らじと低音をきかせた歌声が魅力的なハードなバラード・ナンバー。作曲の藤末は、アニメ・特撮方面では水樹奈々「Bring it on!」やRIDER CHIPS Featuring Ricky「ELEMENTS」などで知られるコンポーザー。茅原への楽曲提供は本アルバムが初だが、彼女の声が持つ独特の湿り気を上手く拾っているように思う。

もっとも絶対温度が低い感情の歌ではないだろうか。
それはメロウな楽曲の流れによるものだけではなく、
茅原実里の切ない声、そして別れのドラマが描かれているからだ。
《君の欲しい言葉を 何もあげられなくて》と、
わかっていながらも伝えることが許されなかった言葉の数々。
そんな痛ましい気持ちが、ギターとストリングの調べに乗せて語られる。
絶望、苛立ち、葛藤の末にある「光」を求めてつき進む。
これはダークでダンサンブルな、哀韻含んだ行進曲なのかもしれない。
この重圧を背負って歌い上げる茅原実里の存在は大きい。