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『Contact』アルバムレビュー(総括)

2007年より音楽活動を再開した茅原実里が、ついに待望の1stフルアルバム『Contact』を完成させた。先行シングル「純白サンクチュアリィ」「君がくれたあの日」の2曲を含む全12曲。シングル曲以外は全て今回のアルバムのために新しく書き下ろされた新曲だ。メインとなる作家は、シングル2曲も手がけた畑亜貴(作詞)と菊田大介(作曲・編曲)のコンビ。鮮烈な印象を与える打ち込みトランス・ビートと生ストリングスが融合したバックトラック、豊かな情景を喚起させる歌詞、そして茅原の美しくも透明感のある歌声。これらの要素が重なり合うことによって、魅力あふれる茅原実里サウンドが形成されているのだ。あくまでコアとなっているのは“シンフォニック・トランス”ラインだが、もちろんそれだけでは終わらない。Tetsh、俊龍、虹音といった新規作家陣を招くことで、ハウス・サウンドやクラブ・ミュージック・トラックなど、意外性のある楽曲も収録され、それはまるで12色に煌めく宝石のよう。そして真に驚くべきは、それらの楽曲群を真正面から受け止め、見事に輝かせている歌手・茅原実里の実力だ。今ここに、まごうかたなき名盤がここに完成した。彼女の音楽活動再開後のまさに集大成となった、本アルバム『Contact』。あとはリスナーの元へこの作品が届けられ、タイトルの如く「触れ合い」「接触」が行われるのを待つばかりである。

1.Contact

アルバム1曲目を飾るタイトル・チューン。アルバムのコンセプトであるトランス・ビート+生ストリングスの融合、そして茅原の透明感ある歌声という編成が早速に打ち出される。物語の始まりを想起させる曲調、繰り返されるフレーズ展開からは、この先の期待度をいやが上にも高めてくれるだろう。また、繰り返される英詞フレーズのパートが、アルバム全体のテーマである「Contact」を暗示しているのも興味深い。

2.詩人の旅

アルバムの先行リード曲としてPVも製作されたおなじみの楽曲だが、前曲「Contact」アウトロからの見事な繋ぎで始まる展開に、思わず「やられた!」と膝を打つ。愛を詩に変えるという詩人と、これまでの経験や感動を歌に乗せていく茅原自身の姿が重ね合わされた歌詞が秀逸。トランス・ビート+生ストリングスの編成も、より激しさを増す歌唱の力強さと共鳴し、まさにPVで見せた広大な景色へと広がっていくかのようなダイナミックかつロマンチックなサウンドへと結実している。

3.ふたりのリフレクション

前2曲とは打って変わって、同じくトランス・サウンドを基調としながらも、きらびやかなシンセ・フレーズが舞い踊るかのようなポップな曲調でまとめられたナンバー。茅原の歌声の中にあるキュートさが余すことなく表現されている。一人では起こすことができないリフレクション(反射)も、二人の交わされる想いによって光となって共鳴する、そんな愛の風景を描写した1曲だ。

4.純白サンクチュアリィ

歌手活動再開第1弾シングルとして発表された本曲。本曲で打ち出された菊田大介による打ち込みトランス+流麗なストリングスというスタイルは、以降の楽曲でも確実に踏襲され、歌手・茅原としてのパブリック・イメージを象徴することにもなった。淡々と、しかし美しく紡がれる彼女の歌声は“クリスタルボイス”と称されているが、本曲サビでのハイトーンの輝きは、まさに彼女ならではの魅力だろう。また、畑亜貴の筆による歌詞も独特の世界観を打ち出しており、楽曲イメージの構築に貢献している。これらの要素が重なり合って生まれた完成度の高い音楽世界は、今回のアルバムが生まれる原動力となったはずだ。

5.Dears 〜ゆるやかな奇跡〜

ここまで菊田大介によるハイスパートなサウンドが続いてきたところで、一旦ギアを落とし、やや毛色の違った楽曲が配されている。作曲:Tatsh、編曲:大久保薫のコンビから繰り出される本曲は、ゆらりふわりとしたミディアム・テンポ・ナンバー。畑亜貴と共に今回のアルバムで作詞を担当しているこだまさおりによる歌詞は、「Dears」(愛しい人)が織り成す愛を綴る。その切ない歌詞を心を込めて叙情的に歌い上げる茅原の歌唱をじっくり聴いてほしい。

6.Cynthia

前曲「Dears」と同作家陣となる本曲は、歌手・茅原実里のまた違った魅力に切り込んでいる。洗練されたアーバン・サウンドで、ドラムンベースから展開する2STEPのクラブミュージック的なリズムと、そこに乗せられた茅原の繊細な歌声がなんとも耳に心地良い。同じくストリングスをフィーチャーしたダンス・ミュージックではありながらも、これだけ違った聴き味に仕上がっているのは、やはり名編曲家・大久保薫の手柄に因るところが大きいか。

7.sleeping terror

眠るときに視た夢の風景を歌ったかのような幻想的な歌詞、ピアノの音色や多重コーラスが茅原の声の持つ“寂しさ”を引き立てる。ポップ&キャッチーさは徹底的に抑制されたサウンドで、今回のアルバム中、最もヘビーな楽曲ではないだろうか? だが、その禁欲的な空間で花開く、畑亜貴×菊田大介×茅原実里が創出する世界観にどっぷりと浸ってみてほしい。きっと、他では得られない独自の魅力が堪能できるはずだ。

8.too late? not late…

本曲がデビュー作という俊龍が作曲を担当。これまで徹底して使われてきた生ストリングスを廃し、ハードなロックギター・サウンドが前面に押し出されながら、サビでは多重コーラスというアグレッシブな仕上がりだ。90年代を感じさせる、いわゆる歌謡ロック的な曲調だが、こういったサウンドの中で聴かせる茅原のボーカルも、高音の響きなどに独特の存在感を示しており、なかなか魅力的だ。

9.夏を忘れたら

ボサノヴァを思わせる生ギターとラテン・パーカッション、そこにエレクトロニカなニュアンスを含んだシンセが絡み合ったハウス・サウンドで、まさに夏を想起させる爽快なナンバー。過ぎ去った夏をわずかばかりの感傷と共に振り返る歌詞にはピッタリの音像だ。昨今流行の“アキシブ系”サウンドを期待するリスナーにもアピールできる仕上がりで、間奏の展開も素晴らしく、個人的にも非常におススメの1曲!

10.mezzo forte

リズム面でのトランシーさは抑制され、ボーカルとストリングスが全面に強調された構成。懐かしさ、切なさ、物哀しさ……そんな感情が湧き上がってくるメロディに、茅原の美しさと力強さが同居した歌声が、これ以上なく映える組み合わせだ。ちなみに、本曲の歌詞では「いつか重なるふたりのフォルテ」とあるが、この“ふたり”を“茅原のボーカルとストリングス”に置き換えるという解釈も可能ではないだろうか?

11.君がくれたあの日

音楽活動再開第2弾シングルとして発表された楽曲。これまでの楽曲解説でも繰り返し述べてきた、“トランス・ビート×ストリングス×クリスタルボイス”という茅原の音楽性を確立させた1曲でもあるだろう。楽曲構成は組曲のようなスケールを感じさせ、聴き手はそのドラマチックかつ壮大なサウンドの中で、心地良い陶酔を味わうことになる。また、アルバム的にもクライマックスという位置付けであり、ここでテンションのピークを迎える。

12.truth gift

アルバムのラストを飾るのは「truth gift(真実の贈り物)」。ゆったりとしたテンポで奏でられる優しい曲調が耳と心に染み入る。SMAP、玉置成美、坂本真綾などを手掛けるアレンジャー・中西亮輔の編曲による、鐘の音やクラップが織り重なっていく重厚な終盤の展開が、心地よい余韻と共にアルバムの終わりを美しく彩る。

クロスレビュアー

アニソンマガジン(洋泉社)などで執筆中の音楽/アニメ・ライター。

80年生の音楽ライター。アニソンマガジンの企画/メイン・ライターを務める。その他執筆媒体は、CDジャーナル、bounce、クッキーシーン、アニカンR-music等など。音楽ガイドブック制作によく参加したり、BGM監修やコンピの監修も手掛けたり。

フリーライター。各アニメ誌・声優誌等にて幅広く活動中。アニメNewtypeチャンネル内の動画インタビュー番組gammyの必萌仕事人ではメインパーソナリティーを務める。

編集プロダクション・ユービック代表。アニメソング専門誌アニソンマガジン編集長。

82年生。ライター。通称「前Q」。ライトノベル、アニメ、アニソンなどオタク周辺事象について広く執筆中。主な執筆媒体にオトナアニメ、アニソンマガジン(洋泉社)、まんたんブロード(毎日新聞)、ニュータイプ(角川書店)など。

フリー編集者、ライター。B Street Band所属。千葉県市川市出身。

構成作家。涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部、らっきー☆ちゃんねる、らっきー☆ちゃんねる 陵桜学園放課後の机、radio minorythm etc.