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『Contact』アルバムレビュー(総括)

じつに透明性の高いアルバムができあがった。
それは無色透明なのではなく可視できるほどの淡い色彩をともなっている。
まるでフィルターをかけたように世界が茅原実里の歌声によって色づいて見える。
彩りは全12色。
今回、アルバムをレビューするにあたって曲をプレーヤーに入れて聴きこんだ。
どんな時でも、どんな場所でも。
例えば、仕事に向かう地下鉄の中で。
例えば、本を読むために入ったカフェで。
例えば、たくさんの他人がすれ違う渋谷のスクランブル交差点で。
そして気づいた。「人との触れ合いはドラマなのだと」。
コンタクトに収録された曲は、特定の主人公がいるわけではない。
それは茅原実里本人かもしれないし、リスナーのアナタかもしれない。
曲に触れることで、新たな自分を発見して心躍らせたり、
孤独な自分を捕まえてみたり、今まで見えなかった繋がりを意識したり。
誰しもがここでは主人公であり、カタルシスを感じとることができる。
「素」の自分と向き合わせてくれるピュアネスな音。
10月24日、ニューアルバム『Contact』にコンタクトしてみて欲しい。
手にしたその日が、あなたにとってのアニヴァーサリーになるから。

1.Contact

表題のついたこの曲はダンサンブルな打ち込みと疾走感溢れるビートで幕を開ける。
アーティスト茅原実里のヴォーカルが疾走するにつれてトランス世界へと誘われてゆく。
言葉のひとつひとつが星になって流れていく感覚。独特なトリップサウンド。
それはまるで小さな宇宙が創造されていくよう。
音の宇宙の中では、余計なことを考えずにただ身を委ねてさえいればよい。
《何の躊躇もいらないわ 光に乗ろうよ》
純粋なる陶酔が、きっとアナタを包みこんでくれる。
《何の躊躇もいらないわ 光に乗ろうよ》
アウトロのストリングスを聴く頃には、きっと幻想世界に引き込まれているだろう。

2.詩人の旅

ドライヴ感溢れるストリングスにのせて「愛を詩にする」旅が始まる。
サビのフレーズには美しいメロディの中に、
ハッとするほど先鋭的な視点で未来の輪郭が描かれている。
《痛みが増す程に強く強くなれるでしょう》
刹那的にも思えるフレーズが、ポジティブに聴こえる理由。
それはエモーショナルな皮膚感覚というか、痛みを恐れていないから。
夜が寒くて辛いと感じたとしても、永遠に明けない夜などない。
あの丘を越えれば、新しい場所が広がっている。だから信じて前へ、前へ。
日本語のみで構成されたリリックと唯一無二のヴォーカリゼイションが、
すんなりと心に突き刺さり、聴き手に眩しい勇気を与えてくれる。
ぜひ目を閉じて、風を意識して、聴いてみて欲しい。

3.ふたりのリフレクション

もっとも自然体で歌われているようなサウンドスケープで、
ヒロイックでロマンティックな歌声に心癒される。
恋をしているときのやさしい気持ちが口語体で書かれた歌詞と融合する。
《わたしの色》が《ふたりの色》に変わるリフレクション。
言葉にして伝えるにはちょっと照れてしまうような純粋な感情を
ここまで自然体に形にできるのは声質と表現力によるところが大きい。
サビで繰り返される「愛」という言葉にトキめいてしまうのは、
きっと僕だけではないはず。

4.純白サンクチュアリィ

純白という最も強い意志をもったカラーをモチーフにして、
互いに距離を縮め合う恋人たちを描いたドラマがとてもビジュアル的だ。
《虹が階段になり》とロマンチックなことを言ってる一方で、
《見つめ合う時間が好き》というリアルな表現にドキッとさせられる。
好きな人が手を伸ばせば届く距離にいてくれることこそが幸せなんだという
当たり前のことに気づかせてくれる名曲だ。

5.Dears 〜ゆるやかな奇跡〜

小説のページをめくるように物語が紡がれてゆく美メロの曲。
この曲を聴いて考えたのは、一生のうちにどれほどの人と出会うことが
できるのかということ。
天文学的な数字が並ぶ可能性の中で、自分に意味を与えてくれる人との出会いは、
まさに奇跡に他ならない。
のびやかに歌われる《繋がった点と点は一人同士だった二人》というフレーズは、
宇宙の中で見つけた奇跡という名の運命だということを感じさせてくれる。
奇跡とは人智を超えた偶発的なものをいうのだと思う。
でも、信じたい。ただ身近な人の’しあわせ’を願い、
自分で歩み寄ることができる、ゆるやかな奇跡があるということを。

6.Cynthia

アダルトなビートと雰囲気の中、英語詞で始まるナンバー。
ここで描かれている恋は、決して子供のおもちゃのような恋ではない。
それはむしろ《真昼の月》という隠喩で表された一種の危うささえ感じる。
《やわらかな温度》に照らされて歌う茅原実里にアーティストとしての
意外なる横顔を垣間見ることができる曲かもしれない。

7.sleeping terror

アルバム収録曲の中では、もっとも独創的な世界を作り上げえている。
歌詞に綴られたイメージだけではなく、緊張感が漂う張り詰めた空気。
サビで歌われる《泣きつかれた私が幻を視てる》というゴシック風のイメージ。
《散ってしまうなんて信じられなかった》という少女性の儚さ嘆き、ロリータ。
メランコリックな世界にアプローチする茅原実里の歌声は、痛くて、切ない。

8.too late? not late…

臆病な恋愛に決別して、絆を求めて飛び立とうとする勇気を表現するには、
相当なヴォーカル力が要求されるが、その期待に見事に応えた。
《いまあなたの腕 心の中へとびこんでもいいですか?》と
疑問形で語られる等身大の恋愛観。
ストレートに心に響いてくるメロディとリリックから、
蝶々が飛び立つ瞬間の情景がはっきりと見えてくる。
「not late...」の後に続く物語は、きっとポジティブだ。
その羽に委ねられた希望と可能性はつきることはない。

9.夏を忘れたら

音楽を聴くことである日の思い出がふいによみがえることがある。
それは、記憶と音楽が心の奥底でリンクしているからだろう。
曲中では、何もすることなく物憂げに見送った夏への想いが語られている。
そして思い出すのは《懐かしい人の笑顔》といった過去。
生きるとは今を過去へと見送っていく行為の連続に他ならない。
《来年のいまは何をしているでしょう》
それが今はまだ想像もつかない不安のベールに包まれていたとしても、
何年か後に、この夏を笑顔と共に思い出すことができるように。
爽やかなギターと清涼感に満ちたヴォーカルが不安を一緒に抱いてくれる。
今という時間は未来へのプロローグ。
この曲を聴いて、今を意識することができたら最高だと思う。

10.mezzo forte

Bメロからサビへの流れは、僕の音楽体験の中でも特別なのものとなった。
歌詞を引用するならば《新しい旋律》が《心に強く響いた》のだ。
叙情的な詩の世界は、まるでゴスペルソングのようでもある。
普段の生活の中で、自分を意識する瞬間はどれ程あるのだろう。
むしろ、自分を見失っていることの方が多いのかもしれない。
周りに見えるものはすべてが虚ろで、本当は何もないのではないかと。
自分はどこ? 自分は何のためにここにいるのだろう?
そんな時、この曲のメロディーが琴線にやさしく触れてくる。
そして共鳴する。《自分という旋律をうたおう》と。

11.君がくれたあの日

「新曲が出来ました」とラジオの現場で一足早くこの曲を聴かせて
もらった時の衝撃を今でもはっきりと覚えている。
まるでクリスタルが弾けるようなイントロが作り出した幻想の中、
空間に迎え入れられるようにして聴こえてきた歌声は優しくて切ない。
楽曲は疾走感あふれるAメロにのせて主人公の物語が語られる。
いくつかの言い訳を並べて葛藤の中に答えを見つけようとする主人公は、
やがてこの痛みの向こうに輝く明日があるという希望に気づく。
曲を聴きながら僕は友人が言ったある言葉を思い出していた。
「どこまで逃げても決して一人になることはできないんだよ」
曲中に登場する《同じ願い》《同じ場所》という歌詞が響いた。
主人公にシンクロして、あの頃を振り返ることができるのは、
きっと君がくれたあの日があるから、だ。
シングルリリースされたこの曲は、希望のフレーズで結ばれる。
《祈りを込めたよ明日への…》−−それは、始まり。

12.truth gift

ストリングスと茅原実里のクリスタルボイスが奏でるハーモニーが心地よい。
目を閉じてメロディーに耳を澄ませば、
アルバム中で一貫して描かれてきた大切な絆が見えてくる。
それは何も恋人に限ったことではない。
家族、友達、そしてアーティストとファンの絆。
《昨日の辛さ誰にも言わなかった》という歌詞からは、
強く演じなければならない自分が想像できて切なくなる。
でも、最後には自分ままでいられる居場所を探し出す。
そのままの私。自然体の私。アーティスト茅原実里にとっての居場所。
曲を聴き終えた瞬間、リスナーはきっとtruthを受け取ることができるだろう。
アルバムを通じて贈られた真のメッセージ。
アナタがいるから、こうして歌っていられるのだということを。

クロスレビュアー

アニソンマガジン(洋泉社)などで執筆中の音楽/アニメ・ライター。

80年生の音楽ライター。アニソンマガジンの企画/メイン・ライターを務める。その他執筆媒体は、CDジャーナル、bounce、クッキーシーン、アニカンR-music等など。音楽ガイドブック制作によく参加したり、BGM監修やコンピの監修も手掛けたり。

フリーライター。各アニメ誌・声優誌等にて幅広く活動中。アニメNewtypeチャンネル内の動画インタビュー番組gammyの必萌仕事人ではメインパーソナリティーを務める。

編集プロダクション・ユービック代表。アニメソング専門誌アニソンマガジン編集長。

82年生。ライター。通称「前Q」。ライトノベル、アニメ、アニソンなどオタク周辺事象について広く執筆中。主な執筆媒体にオトナアニメ、アニソンマガジン(洋泉社)、まんたんブロード(毎日新聞)、ニュータイプ(角川書店)など。

フリー編集者、ライター。B Street Band所属。千葉県市川市出身。

構成作家。涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部、らっきー☆ちゃんねる、らっきー☆ちゃんねる 陵桜学園放課後の机、radio minorythm etc.